曲名は「.」。次の曲は「..」。その次は「…」。歌詞は暗号まじりで、画面は黒に白い文字だけ。投稿者の名前は「全て〇〇の所為です。」。
……そして本家の新曲は、もう4年近く出ていない。それでも、まねした曲は4,000曲をこえた。ようこそ、すべあな界隈へ。
ひとことで言うと
ネットの音楽家「全てあなたの所為です。」(通称すべあな)と、その作風をまねした「模倣曲」を作る人・聞く人・楽しむ人たちの集まりのこと。
たとえるなら、ひとりの画家の画風を、何千人もがまねして描き、その絵をみんなで見せ合って楽しんでいる美術部。ただし部長は、ほとんど部室に来ません。
- 本家は、正体不明の「全てあなたの所為です。」。YouTubeの動画は11本だけ
- その作風をまねた曲を「模倣曲」、作る人を「模倣」や「界隈人」と呼ぶ
- 模倣曲は、2025年5月時点で約4,000曲あるとされる(ピクシブ百科事典)
- 黒い背景に白い文字、合成音声の歌、暗号入りの歌詞が「型」
- 投稿イベント、年表、月報、歌詞サイトまで、ファンが自分たちで運営している
- 「本家とまちがえない」「二次創作だと明記する」が大事なお約束
つまり、「本家をリスペクトしながら、同じ作風で遊ぶ」ことを何年も続けている、ネットの音楽サークルのような場所です。界隈の中の界隈、と言ってもいいかもしれません。
本家「全てあなたの所為です。」とは
読み方は「すべてあなたのせいです」。最後の「。」までが正式な名前です。2018年2月ごろから別の名義でニコニコ動画に投稿をはじめ、同年5月にいまの名義で「.」を公開しました。2018年9月にYouTubeチャンネルを開き、12月ごろにはニコニコのアカウントを作品ごと削除。以後はYouTubeだけで、不定期に曲を発表しています。
プロフィールはほぼ不明。顔も声も出しません。YouTubeチャンネルの説明欄にあるのは「このアカウントのもの以外は無断転載です。」という一文だけ。それでもチャンネル登録者は約19.5万人(2026年10月時点)います。
YouTubeで公開されている本家の曲は、次のとおりです(再生回数は2026年10月時点の目安)。
| 曲名 | 公開日 | 再生回数(目安) |
|---|---|---|
| . | 2018年9月13日 | 約1,280万回 |
| .. | 2018年9月24日 | 約480万回 |
| 教育 | 2018年10月12日 | 約130万回 |
| アブジェ | 2018年11月30日 | 約90万回 |
| … | 2018年12月30日 | 約130万回 |
| 表・裏 | 2019年4月24日(同時公開) | 約67万回・約59万回 |
| 名の無い星が空に堕ちたら | 2019年9月28日 | 約140万回 |
| エヌ | 2020年6月28日 | 約200万回 |
| K² | 2022年11月11日 | 約110万回 |
点の数で区別する「.」「..」「…」、短い漢字の「教育」「表」「裏」、そして「K²」。曲名からして暗号のようです。いちばん再生されているのは最初の「.」で、1,000万回をこえています。2020年6月28日には、「エヌ」「アブジェ」「教育」などを収めたEP『CXXXII』も配信されました。歌声には、多くの曲で合成音声の「デフォ子」が使われているとされています。
いちばん新しい曲は、2022年11月11日に出た「K²」です。音楽ナタリーによると、その約4週間前、YouTubeに「1111」という文字と真っ黒な画像だけが投稿されました。画像の明るさを上げると、「K²」の文字が浮かび上がる仕掛けだったそうです。新曲の告知まで暗号。徹底しています。
成り立ち
「..」から始まった、まねの連鎖
2018年にYouTubeで公開された「..」のあと、その作風をまねる人が現れます。はじめは「なんとなく似ている」程度でしたが、2019年に入ると、はっきり「模倣」を名乗る曲が広がりました。
まねされた側の曲名をとって、「〇〇模倣」と呼ぶのが習わしです。模倣曲をさらにまねした「模倣の模倣」もあり、本家から数えて三次、四次と、連鎖はどんどん深くなっています。二次創作どころか、n次創作の世界です。
もっと前にも「源流」がある
すべあな界隈は、もっと大きな「界隈曲」という流れの一部として語られることもあります。界隈曲は、ある作曲者の作風をたどる曲のジャンル。その作曲者はすでに活動をやめていて、界隈では名前を出さないのがお約束になっています。
すべあなとその作曲者の関係は、公式には何も語られていません。「同じ人では?」と話題になった時期もありますが、現在は別人とされています。この記事でも、名前は出しません。
この独特な状況を、ひと息で説明している投稿があります。
どんな人たち?
- 模倣(界隈人):模倣曲を作って投稿する人。名前は「全て〇〇の所為です。」の形が多い
- リスナー:模倣曲を聞き、暗号を解き、コメント欄で考察する人
- 作字する人:すべあなの曲「教育」の題字をまねた「教育文字」を作る人
- 記録する人:年表、月報、歌詞サイトを作って、界隈の歴史を残す人
- Scratch勢:プログラミング学習サイトScratchで、模倣作品を作る人たち。こちらにも独自の界隈がある
ひとりで何役もこなす人が多いのも特徴です。中には、アカウントを何十個も使い分ける人もいるそうです。世界観を作るためだったり、同じ人だと知られたくなかったり。名前の多さも、ミステリアスさの一部です。
模倣曲の「型」
模倣曲には、よく出てくる特徴があります。もちろん全部そろっている必要はありませんが、いくつか当てはまると「すべあなっぽい」と感じる人が多いはずです。
- 映像:黒い背景に白い文字。ドット絵のものもある
- 歌声:合成音声。とくに「デフォ子(唄音ウタ)」が定番
- リズム:ドン、ドン、ドン、ドンと続く四つ打ち
- すべあなアルペジオ:細かく速い音のフレーズ
- 歌詞:意味がつかめそうで、つかめない。考察したくなる
- 暗号:モールス信号、鍵盤の位置、カレンダーなどで、メッセージを隠す
- 裏歌詞:メインの歌詞の裏で、別の歌詞が同時に流れる
まねの仕方にも種類があります。
- 定型模倣:本家の特定の1曲をまねる。いちばん多い
- 模倣の模倣:模倣曲をさらにまねる
- 複合模倣:いくつもの曲の要素を組み合わせる
- オリジナル模倣:特定の曲はまねないが、作風は「すべあな」
「どの曲の模倣か」まで、ファンはちゃんと見分けています。カレーで言えば、「これは〇〇のキーマカレーをまねた店の、さらにそれをまねた店のカレー」まで言い当てる世界です。
「全て〇〇の所為です。」名前のつけ方
模倣のアカウント名は、本家の名前を一部だけ変えるのが定番です。YouTubeで「全てあなたの所為です。」と検索すると、こんな名前がずらりと並びます。
- 全て剽窃の所為です。
- 全て事象の所為です。
- 全て過去の所為です。
- 全て残滓の所為です。
- 全てあなたの所以です。
- 全てあなたの行為です。
そして、その多くがチャンネルの説明欄で「〇〇様の二次創作です」「本家とは無関係です」とはっきり書いています。名前は似せても、本家とは混同させない。ここに、この界隈のまじめさが出ています。
ちなみに、ここまで読んで「全て時間の所為です。」と思った人。だいたい、もう誰かが使っています。
界隈のお約束
- 本家とまちがえない・まちがえさせない:似た名前のアカウントが多いので、本家は「全てあなたの所為です。」氏だけ、という前提を大切にする
- 二次創作だと明記する:模倣は、本家が嫌だと言えば成り立たない。暗黙の了解の上で活動している自覚がある
- 名前を出さない人がいる:界隈曲の源流とされる作曲者の名前は、出さないのがマナー
- 身内ネタをよそに持ちこまない:ほかの界隈で界隈のノリをくり広げない
- 決めつけない:作風が似ているだけで「模倣でしょ」「あの人の別アカでしょ」と言わない
界隈のイベントとあるある
プレラ(プレミアラッシュ)
たくさんの模倣が、時間をずらして次々に新曲を公開するイベントです。YouTubeの「プレミア公開」を使うので、プレミアラッシュ、略してプレラ。2020年夏に始まり、いまは有志の運営委員会が年3回ほど開く「定期プレラ」のほか、たまたま投稿が重なって起きる「自然発生プレラ」もあります。
「親」コメント
プレミア公開を待つカウントダウン画面に、「親」とだけコメントする文化があります。「親の顔より見たカウントダウン」の略とされています。見すぎです。
年越しのカウントダウンメドレー
模倣たちの交流団体「Imitate Community(イミコミュ)」は、年末にたくさんの模倣が参加するカウントダウンメドレーを公開しています。2025年版は12月29〜31日のイベントで公開され、メドレーの参加者は史上最多の26名。参加者のパートを1本ずつ切り出した「単品」動画も、それぞれのチャンネルに上がっています。
金枠・ダイヤ枠
曲が1万回再生、または名義の登録者が1,000人をこえると「金枠」。さらに上には、ダイヤ枠(10万再生/登録者1万人)、ルビー枠(100万再生/登録者10万人)もあります。界隈の中だけで通じる、手作りの勲章です。
教育文字
すべあなの曲「教育」の題字をまねた、細い直線を折り曲げたり交差させたりして文字を作るデザインです。黒地に白い線で、二字熟語を描くのが基本。いまや音楽を作らない人まで、教育文字を描いて投稿しています。
年表と月報と歌詞サイト
界隈の出来事をほぼすべてまとめた「界隈年表」、新曲の再生数ランキングを毎月まとめる「模倣月報」(2024年1月号から)、模倣曲の歌詞を集めた非公式サイト「全て歌詞の所為です。」。記録への情熱がすごい。歴史学者がいる界隈は強いです。
よく出る言葉
- すべあな:「全てあなたの所為です。」の略。本家のこと
- 模倣曲:すべあなの作風をまねた曲
- 模倣・界隈人:模倣曲を作る人
- 定型模倣:本家の特定の1曲をまねた曲
- 〇〇模倣:もとになった曲名をつけた呼び方
- デフォ子:合成音声ソフト(UTAU)の歌声「唄音ウタ」。界隈の歌声の定番
- プレラ:プレミア公開をつなげる投稿イベント
- 親:カウントダウン画面に書くコメント
- 教育文字:「教育」の題字風のデザイン文字
- 金枠:1万再生、または登録者1,000人の達成
- 代理:模倣の「中の人」を表すキャラクター
- バッジ:作者ごとに決まった絵文字。XやDiscordで「この人の作品」の印になる
- イミコミュ:模倣の交流団体「Imitate Community」の略
数字で見るすべあな界隈
- 本家のYouTube登録者:約19.5万人(動画11本)
- 本家の総再生回数:約2,900万回
- 模倣曲:約4,000曲(2025年5月時点、ピクシブ百科事典)
- 界隈年表の登録件数:1万3,000件以上(2018年は124件、2025年は2,709件)
- 歌詞サイトの登録曲:1万曲以上(「全て歌詞の所為です。」)
- イミコミュのDiscord:参加者800人以上
年表の登録件数は、2018年の124件から、2021年に1,000件をこえ、2025年には2,709件。本家が新曲を出していない2023年以降も、毎年増えつづけています。くわしくは「模倣曲」の記事でまとめています。
(数字は2026年10月時点の目安です)
なぜ今、ネタや作品が増えているのか
本家の新曲は2022年から出ていないのに、界隈の作品はむしろ増え続けています。編集部が見たところ、理由は大きく4つありそうです。
1. 型がはっきりしていて、参加しやすい
黒い背景に白い文字、合成音声、四つ打ち。必要な道具は、パソコンと無料のソフトで手に入ります。「何をすればすべあなっぽくなるか」がはっきりしているので、初めて曲を作る人でも参加しやすいのです。実際、学校の合間に模倣曲を作りはじめ、仲間と合作アルバムまで作った体験をつづったnote記事も見つかります。
2. 本家を待つあいだを、みんなで埋めている
本家は、いつ新曲を出すかわかりません。その「待ち時間」を、模倣たちの新作やイベントが埋めています。待つことそのものが、界隈の楽しみになっているとも言えます。
古い音声合成の画面を見ても、まず思い浮かぶのはすべあな。待ちすぎて、黒い画面に白い文字が流れるだけで反応してしまう体になっています。
3. 若い作り手が、新しい場所から入ってくる
YouTubeだけでなく、プログラミング学習サイトScratchにも模倣の界隈ができています。2026年5月には、Scratchの界隈の「完全攻略ガイド」がnoteで公開されました。投稿イベントや月報、年表まで、YouTubeの界隈と同じ文化がまねされています。界隈の文化ごと、模倣されているわけです。
4. 界隈の外でも「すべあな」がネタになる
黒い画面、意味ありげな記号、点だけのタイトル。この「すべあなっぽさ」は、界隈を知らない人にも伝わるネタになりました。
参加者が全員すべあなだったら……。議事録が暗号になりそうです。
外から見ると
初めて見ると、正直こわいです。曲名は記号、歌詞は暗号、作者は正体不明、似た名前のアカウントが何十個も。何かの儀式にしか見えません。
でも中身は、とてもまっすぐな創作の場です。好きな作風をまねして、作って、見せ合って、イベントを開いて、記録を残す。「まね」から始まって、いつのまにか自分の作風を見つけていく人もいます。
そして、本家への敬意を忘れない。似た名前を名乗りながら、「本家とは無関係です」と書き添える。その律儀さこそが、この界隈を何年も支えてきたのかもしれません。
まとめ
- すべあな界隈は、「全てあなたの所為です。」と、その作風をまねた模倣曲を楽しむ人たちの集まり
- 黒い背景に白い文字、合成音声、暗号入りの歌詞が型。模倣曲は約4,000曲
- プレラ、「親」コメント、教育文字、年表。手作りの文化が厚い。本家の新曲は、今日もみんなで待っている
ほかの音楽の界隈が気になる人は、ボカロ界隈や歌い手界隈の記事もどうぞ。
次に読む
出典
- すべあな界隈(ピクシブ百科事典)
- 教育文字(ピクシブ百科事典)
- 謎多き投稿者・全てあなたの所為です。が2年ぶり新曲配信(音楽ナタリー、2022年11月11日)
- Scratchすべあな模倣界隈完全攻略ガイド(note、2026年5月)
- すべあなが新曲を10年以上出さないとどうなるだろうか?(note、2024年9月)
- 全てあなたの所為です。(YouTube)
- 全てあなたの所為です。楽曲一覧(Imitate Community)
- 定期プレラについて(定期プレラ公式サイト)
- すべあな界隈年表
- Imitate Community Countdown 2025
(この記事は2026年10月20日時点の情報です。再生回数・件数は目安です。)



コメント